B-01

「ほたーるのひかーり・・・」

と卒業式で歌っていたのもついこの前の事、3月が終わって4月・・中学校の入学式
校長先生のお話(間で貧血を起こしたりする方もいましたが)が終わると、今度はそれぞれの新しい教室で自己紹介・・

「天導寺景(てんどうじ ひかり)です、皆さん、どうぞよろしくお願いします。」

・・どうやら気の良い方々のようでよかったです
クラス編成の中には裕司くん、そして雫さんもいますし・・
明くんも隣のクラスなので、安心しました。

・・席に着くと、隣の方が声をかけてきます

「ねぇねぇ、天導寺さんってもしかして「天導寺舞人」の娘さん?」
「?・・ええ、舞人は父ですが・・」
「うそ!?ホントに天導寺重工のお嬢様!?」

・・このリアクション・・私の父親である「舞人」という方はすごい人らしいのです
私にとっては普通の、「良いお父様」であって特別な所はないのですが・・
時々このように驚かれる方がいますが・・私には何がなんだか(汗)

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「やっぱり有名人だねぇ、舞人さん」
「・・そうなんですか?・・普通のお父様だと思うのですが・・」
「普通じゃないから有名なんですよ☆」

2・3時間目の間の長い休憩・・景、裕司、雫の三人は教室を出て、廊下を歩いていた
とりあえず校内を歩き回って色々見てくるつもりらしい
・・明も誘ったのだが、彼は「新しい友達」を見つけたらしく、彼を「追う」との事だった
(よく考えると意味がわからないが)

「・・あら?」
「どうかしたの?」

景は突然立ち止まると、胸ポケットにしまってある携帯電話を取り出した
・・光っている、不思議な色に・・

「どうなっているんでしょうか・・これ?」
「ぐ、グローな電話じゃないんですか??」

・・その奇妙な輝きはすぐに収まったが・・


・・・もう、すぐそこまで来ています・・


・・景は、そんなつぶやきにも似た小さな声が、聞こえた気がした

「・・そこまで・・・来ている・・?」

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・・放課後・・

クラスの皆とも打ち解け、半日で中学の第一日目は終わった
そして景たち四人は帰路についていた

新しく通うことになった「輪舞第三中学校」は小学校と違い、それぞれの自宅からやや離れた場所にある
・・街の繁華街を通って帰る道のり・・
賑やかな通りを歩いている間も、景は携帯電話をじ~っ・・と見つめていた
・・だが何の変化もない、今はただの携帯電話だ。

「景、いつまでも気にしててもしょうがないと思うけど・・(汗)」
「でも、現に光ったのだから何か原因があるはずです。」
「・・・悪い癖、ですね☆」
「俺も見たかったな~、光るトコ」

その時だった
賑やかで平和な繁華街が、突如としてざわめきと異様な悲鳴とに変わったのは・・

「え・・・」

絶句・・それしかなかった
振り返った景の目に映ったのは燃え盛る炎・・そして、崩れ落ちるビルと、それを崩した「犯人」だ
・・「犯人」、「人」ではない、「ロボット」・・?

「な、何あれ!?」
「映画の撮影にしては過激ですねぇ・・(汗)」


・・来てしまいましたか・・まだ準備は・・!



裕司達の声に混ざってそんな「声」が、景の耳に・・頭に直接、響いてきた

「誰ですか?・・この電話・・?」

・・そう思って景の取り出した携帯電話には、またあの輝きが宿っていた

「うひゃぁ、また光ってる!?」
「そ、そんなのいいから逃げるよ景ッ!!」
「・・逃げる・・?」

そうだ、走らないと・・
ロボットの歩行速度は速く、街を、建造物をなぎ倒しながら一直線に侵攻している
・・つまりこちらに、何を目指すでもなく向かってきている・・


「あ・・っ」


走り出した矢先、足下がふらついた
突然の行動に身体がついていかない・・意志とは関係なく、倒れ込んでしまう

「景ッ!!」

その裕司の叫ぶ声と、景の上から崩れたビルの瓦礫が落ちてくるのは同時だった
・・裕司は景を両手で抱え、ジャンプしてギリギリで瓦礫を回避する

「っ・・・っててて・・大丈夫・・景?」
「え、ええ・・ありがとう、裕司くん・・」
「よかっ・・・!?」

た、とつぶやく間もなく・・
真上から、さっきのロボットの「足」が落ちてくる・・

・・まずい!


裕司は跳躍し、景の身体をギリギリ踏まれない、向こう側へ放り投げると・・
・・そのままロボットに踏みつぶされ、周囲の瓦礫もろとも・・


「痛・・ぅっ・・」

いきなり投げ飛ばされた景はアスファルトに軽く腕を打ち付けたものの、無事だった

「・・あれ?・・裕司く・・・ん・・・・・」


目の前のロボットの足が移動すると、先ほどまで裕司と自分の居た位置に瓦礫が降り注ぐ
・・見える範囲に裕司はいない、ということは・・・

「裕司・・くん・・・まさか・・!?」


・・恐らく裕司は、今の瓦礫の下に・・

「・・いや・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」


声に反応するかのように・・携帯電話は、三度、またしても輝いた

『・・姫、命令を』
「・・え?・・・・・・」

電話は輝いて・・そんな言葉が、聞こえてきた
画面には人影のようなものがゆらめいている

『私はディオン、姫の剣となるべく参上した者です・・さぁ、「命令」を』

・・ワケがわからなかった
ロボットが来て、街が破壊されて、裕司が死んで、携帯電話が輝いて・・

「あなたは・・誰・・?」
『・・かの者を倒すべく、かの者の組織を倒すべく存在する者です・・』
「・・あのロボットを・・どうにかできるのですか?」
『それが姫の望みとあらば、私はそれを実行するまでです』


・・景は叫んでいた
思えば、こんな奇妙な現象に対面したというのに全く動揺しなかったのはどういう事だろう・・
後で思う事だが、それは「確かに妙な状況だった」

「あのロボットをやっつけて下さい・・「ディオン」さん!!」
『・・心得ました、姫!』


・・「姫」・・何故そう呼ばれたのか?
・・「ディオン」・・そもそも誰なのか?
・・「ロボット」・・あれは何なのか?

突然襲ってきてたたみかけるように被さった謎、その中で景は叫んでいた
携帯電話は輝きを一点・・画面に集中し、一直線に光条が飛び出す
輝きは壊れたビルの瓦礫に当たり・・「分解」した
粒子となった瓦礫は空中で一つの「形」になり、景の前に「姿」を現した

・・大きさにして10メートルほどの、ロボット・・
先ほどの大きいだけのものとは違い、細身のラインで人型、美しいフォルムで、頭部はまるでバイザー付のヘルメットを被ったような形状をしていた
・・そのバイザーは閉じていて、容姿はまるで騎士そのものである。

「・・あなたが・・ディオン・・さん・・?」
『それではしばしお待ちください、姫!』

・・「ディオン」は左手を前に礼をすると、音もなく跳躍し、さっきのロボットに飛びかかった

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左手を振るうと、ディオンの手には「盾」が握られた
右手でその「盾」に手を入れると、その手に剣が握られる

『何ッ!?』

ロボットは驚きの声を上げて振り返り、ディオンの剣を巨大な左腕で受け止めた
ディオンはその腕を蹴ってもう一度跳躍すると、高いビルの上に立ち構えなおした

『宇宙海賊ベイヴォルフ・・警察機構・空間共通条約3項違反により、私達はその行動の阻止権を発動する!!』
『宇宙警察機構のイヌっころ!?も、もう地球に来てやがったのか!?』
『悪ある所・・正義あり!!』

驚きながらも両腕で攻撃してくる「ベイヴォルフ」のロボット兵・・
四足、寸胴、巨大な左腕が特徴のアンバランスなそれは、ディオンの立っていたビルを一撃で完全粉砕した
・・しかしもう、ディオンはそこにいない!


『たぁッ!!』

ぎぃぃん!・・と金属が音を立て、隙だらけだったロボット兵の右腕をディオンの剣が切り裂いていた
斬られた腕が宙を舞う・・

『て、てめぇぇぇっ!?』

大きく左手を振り回すが、ディオンはそれをあしらうかのように跳躍して腕に飛び乗った

『・・騎士たるもの行動を迅速に・・この一撃で、終わらせますよ!!』
『なぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


ロボット兵の視界から突然消えると、ディオンの姿はもうその真上にあった

『せぇぇぇぇぇいやぁぁぁぁぁッ!!!』


振り下ろされた剣はそれ自体から発生したエネルギーの流れで延長され・・
ロボット兵は完全に、真っ二つになった。

・・そして、爆発・・




爆発に照らし出された青いロボット「ディオン」・・
その姿を見上げながら、景は呆然と立ちつくしていた











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